比例てん補
「比例てん補」は、保険の対象物の価値に対して契約した保険金額が不足している場合に、損害額へ“契約割合”を乗じて支払額を算出する仕組みです。
建物や家財の実際の価値(保険価額)に比べて、契約で設定した保険金額が小さい状態を「過少保険」と呼びます。過少保険のまま事故が起こると、損害額そのものが支払われるのではなく、「契約割合=保険金額÷保険価額」を掛けた額が上限になるのが比例てん補の考え方です。全損時は契約した保険金額までが上限、部分損時は損害額に“契約割合”を掛けた額が支払基礎になります。
比例てん補の概要
保険金額が保険価額を下回ると、支払いは契約割合で按分されます
キーワードの整理
保険価額は対象物の価値、保険金額は契約上の上限金額です。保険金額<保険価額の関係にあると「一部保険」となり、部分損の支払いに比例てん補が適用されるのが一般的です。
対象となる典型場面
建築費の高騰に対して金額を据え置いた契約、増改築で価額が上がっているのに保険金額を見直していない契約、家財の購入で総額が増えているのに初期設定のまま、といったケースで過少保険が生じやすくなります。
新価契約と比例てん補の関係
新価(再調達価額)契約であっても、保険金額の設定が低ければ比例てん補は発生し得ます。評価基準が新価か時価かとは別に、「金額設定が適正か」が最重要ポイントです。
算定式と数値例
支払保険金は「損害額×契約割合(保険金額÷保険価額)」が基本形です
基本式
支払保険金=損害額×(保険金額÷保険価額)−免責金額。全損の場合の上限は保険金額です。費用保険金や特約が別枠で支払われる商品もありますが、損害保険金の算定はこの枠組みが出発点です。
具体例(部分損)
保険価額2,000万円、保険金額1,000万円の契約は契約割合50%です。台風で屋根が破損し損害額600万円の場合、支払基礎は600万円×50%=300万円(免責があれば差引)。実費600万円満額ではなく、過少保険分だけ按分されます。
具体例(全損)
同じ契約で全損2,000万円の被害が出ても、上限は保険金額の1,000万円です。部分損は按分、全損は契約上限という性格の違いを押さえておきましょう。
よくある誤解と注意点
「損害額=支払額」ではなく、契約割合で減額されるのが比例てん補です
見積が高いほど有利という誤解
見積額が正しくても、過少保険なら按分により減額されます。見積の精度は重要ですが、根本原因である金額設定の不足は見積の多寡では解消しません。
一部保険と免責の影響
按分後の金額からさらに免責金額が差し引かれるため、小損害ほど受取額が小さくなります。特に免責が大きい設計では支払いゼロに近づく場面もあります。
水災や破損汚損の特約との関係
事故区分や特約で支払枠が変わることはありますが、損害保険金のベースは契約割合で計算されます。費用保険金の枠は別途活用できる場合があるため、証券で上限と適用条件を確認しましょう。
比例てん補を避ける・抑える設計
「保険金額を適正化」し、「価額の変化を定期点検」するのが最善策です
保険価額の把握と更新時の見直し
建築費・資材価格の上昇、増改築、設備追加で保険価額は変化します。更新や大きな改装のタイミングで再調達価額ベースの見直しを行い、保険金額を適正化しておくと按分リスクを抑えられます。
評価方法と自動増額の活用
新価評価や建物評価の自動調整を採用できる商品では、価額のブレを低減できます。家財は世帯構成や持ち物の変化に応じて定期的に金額を棚卸ししましょう。
目的別の補償枠を整える
損害保険金と並行して、臨時費用や残存物取片付けなどの費用保険金枠を備えると、按分で減った本体分をある程度補完できます。重複請求は不可のため、使い分けの整理が鍵です。
請求実務での立証と資料整備
損害額の根拠と「契約割合」の前提が明快だと査定がスムーズです
損害額の立証
全景・中景・近接の写真、原因の説明、部材・数量・単価が明記された見積書、再発防止を含む復旧方法の妥当性がポイントです。複数業者の見積比較も有効です。
保険価額の確認と説明
評価額の根拠(再調達価額の算定、面積・仕様、増改築の内容)を整理し、契約時の金額設定との差分を説明できると、按分の理解が得やすくなります。
免責・特約・費用枠の併用整理
按分後の金額から免責を控除し、並行して費用保険金の対象可否と上限を確認します。見舞費用や仮住まい、養生・撤去などの費用枠は領収書や契約書の保管が肝心です。
ケース別の理解を深めるヒント
同じ損害額でも「契約割合」により受取額が変わることを前提に計画を立てます
小損害の積み上がり
免責が大きい契約では、按分と免責の相乗で実質受取が小さくなりがちです。養生や応急の領収書を確実に集め、費用保険金を活用して実費負担を軽減します。
大規模損害と資金計画
全損や大規模半損では保険金額が上限となるため、復旧資金の不足が懸念されます。ローン・助成・自己資金の組み合わせや、工事工程に応じた分割入金の調整が現実的な選択肢になります。
集合住宅・賃貸の境界
共用部の損害は管理組合の契約、専有部や家財は各世帯の契約という整理が一般的です。按分の影響は契約単位で独立して発生します。
比例てん補についてのまとめ
比例てん補は「契約割合」により支払額が按分される仕組みで、過少保険を避ける設計が最重要です。
支払保険金は損害額に契約割合を掛けて算定され、全損は保険金額が上限です。評価基準が新価であっても、金額設定が低ければ比例てん補は起き得ます。更新や改装の節目で保険金額を見直し、費用保険金の枠も活用して復旧資金の不足を緩和しましょう。
請求実務では、損害額の根拠、保険価額の説明、免責・特約・費用枠の整理を同時に進めるとスムーズです。契約割合の影響を前提に資金計画を立て、過少保険を防ぐ日頃の点検・見直しを心がけてください。