MENU

耐火被覆鉄骨造建物

耐火被覆鉄骨造建物は、鉄骨(鋼材)を主要構造とし、火災時の高温から鋼材を守るために不燃材や耐火材で柱・梁などを覆った建物を指します。

鋼材は常温では強度に優れ、地震に対してもしなやかに抵抗できる一方で、約500℃前後から強度が急低下します。この弱点を補うため、ロックウールやけい酸カルシウム板、耐火被覆モルタル、耐火塗料などの材料で鋼材を一定厚さで連続的に覆い、部材温度の上昇を抑えるのが「耐火被覆」です。適切な被覆が確保されると耐火時間(例:1時間・2時間など)の性能を満たし、延焼遅延・避難時間の確保とともに、火災保険上も耐火性が高い構造として評価されやすくなります。

耐火被覆鉄骨造の定義と位置づけ

鉄骨の利点と弱点、耐火被覆の役割を起点に、構造の全体像を押さえましょう。

● 鉄骨造の基本的な利点

高強度・高靭性・軽量で、スパンの大きい空間をつくりやすく、増改築や設備更新にも柔軟に対応できます。設計自由度が高く、施工性にも優れています。

● 火災時の弱点と耐火の必要性

鋼材は高温で降伏強度が大幅に低下し、座屈・変形を起こしやすくなります。被覆なしの鉄骨は火災時に短時間で耐力を失うため、所定時間の耐火性能を満たす被覆が不可欠です。

● 保険・性能評価上の位置づけ

耐火被覆が適切に施工・維持され、所定の耐火時間を満たす鉄骨造は、延焼抑制や構造安定性の観点からリスクが低いと評価されます。結果として、火災保険では耐火性の高い区分とみなされ、保険料の算定で有利に働く場合があります。

耐火被覆の仕組みと主要材料

被覆は「鋼材を熱から隔離する厚さ・連続性・不燃性」で性能を出します。代表的な材料と特徴を把握しましょう。

● けい酸カルシウム板・耐火ボード系

工場成形板を現場で張り付ける方式です。仕上がり外観が整えやすく、品質の均一化が図りやすい一方、目地処理や留め付け金物の耐火ディテールに留意が必要です。

● 吹付ロックウール・耐火被覆吹付材

繊維系の不燃材を湿式・乾式で所定厚吹付けして被覆します。複雑な形状やディテールにも追従しやすく、連続性を確保しやすいのが利点。厚さ管理と付着性の確保が品質の肝になります。

● セメントモルタル・軽量モルタル

湿式で被覆厚を形成します。堅牢性が高く、衝撃にも比較的強い一方で、自重増による構造計画・施工手間の増加やひび割れ対策などの配慮が求められます。

● 耐火塗料(膨張発泡型等)

意匠性と軽量性に優れ、露出鋼材の意匠仕上げと耐火を両立できます。メーカー規定の膜厚管理・下地処理・上塗り維持が性能の決め手です。外部適用の可否や耐久性仕様を確認します。

● ディテールの連続性と熱橋対策

ボルト頭・接合部・梁端部・ハンチなどで被覆の途切れが生じると、局部的に温度が上がり性能を損ないます。役物・面戸・シーリングなどで連続性を確保し、熱橋を排除します。施工時の写真・厚さ測定記録が重要です。

性能評価・法的枠組みと設計上の留意点

必要耐火時間、適用認定、設計条件を満たすことで、建築基準と保険評価の両面で妥当性が担保されます。

● 必要耐火時間の考え方

用途・規模・階数・避難計画等に応じて1時間・2時間などの耐火時間が求められます。要求時間を満たす厚さ・工法を設計段階で特定し、施工計画に落とし込むことが大切です。

● 認定・仕様の適合性

製品認定・仕様書・施工要領書に従った部材・厚さ・下地処理で施工し、部位ごとの仕様逸脱を避けます。改修や用途変更の際は、当初の仕様と同等以上の性能を確認します。

● 露出意匠と維持管理の両立

耐火塗料やボード仕上げで意匠性を確保しながら、衝撃・汚損・湿気・紫外線などの劣化因子に配慮したディテールを採用します。清掃・再塗装・当て板補修などの長期維持計画も合わせて検討します。

保険上の見え方と契約時の実務ポイント

耐火被覆の有無・仕様は、火災時の損害期待値に直結し、保険の料率や条件にも影響します。

● 耐火性評価と保険料の関係

被覆が適切で耐火時間を満たす鉄骨造は、延焼・構造崩壊のリスクを低減し、保険上は耐火性が高い構造として評価されます。結果として、非耐火の鉄骨に比べ、保険料設定で有利になることがあります。

● 申込・更新で確認すべき資料

建築確認申請図書、検査済証、仕様書、構造図、納まり図、施工写真、被覆厚さ測定記録、材料納入証明、完成図書などを整理し、耐火被覆仕様を明確に示します。改修歴がある場合は、その内容・範囲と性能同等性の証跡を用意します。

● 事故時対応と査定の観点

火災・水濡れ・衝撃で被覆が剥離・欠損した場合は、部位・面積・厚さ・下地の状態を記録し、補修仕様を選定します。構造安全性に関わる場合は、仮設支保・応急被覆で二次被害を防止しつつ、査定書類に写真・図面・見積根拠を添付します。

維持管理・点検と劣化メカニズム

耐火性能は「竣工時の仕様を保つこと」で維持されます。目視・触診・計測を組み合わせた点検が効果的です。

● 代表的な劣化・不具合の兆候

衝撃による欠け・剥離、漏水や結露によるふくれ、目地開き、固定金物の腐食、塗膜の白化・ひび割れなどが見られます。設備更新時の切欠き放置や、不要開口の未補修もリスクです。

● 点検周期と補修の考え方

年1回程度の定期点検に加え、地震後・漏水後・設備更新後は臨時点検を行います。欠損・薄肉化があれば同等以上の仕様で補修し、厚さ・連続性を回復させます。耐火塗料は膜厚計測と再塗装計画が要点です。

● ライフサイクルの最適化

初期コスト・意匠・維持費のバランスで工法を選びます。衝撃の多い倉庫や物流施設は堅牢なモルタル・板材、意匠重視のオフィス・商業は耐火塗料など、用途に合わせた最適解が異なります。

よくある誤解とリスクコミュニケーション

「鉄だから燃えない」という誤解を解き、関係者で共通理解をつくることが安全・保全と保険実務の要です。

● 鉄骨は燃えないが高温で弱る

可燃性ではないものの、高温で強度が低下します。被覆は「燃えないようにする」だけでなく「温度上昇速度を遅らせる」役割を担います。避難・初期消火・延焼抑制の時間を稼ぐことが主目的です。

● 部分欠損の軽視は禁物

小さな欠けでも、局所的な熱集中で性能が崩れます。特に柱脚・梁端・仕口金物周りの欠損は要注意で、早期補修が望まれます。目視だけで判断せず、打診・膜厚測定等で確認します。

● 設備更新時の貫通部処理

空調・配管・電気ダクトの貫通は被覆の弱点になりがちです。防火区画と合わせた耐火措置を行い、更新後は写真と検査記録で性能の連続性を証拠化します。保険更新前の棚卸しにも役立ちます。

耐火被覆鉄骨造建物についてのまとめ

耐火被覆鉄骨造建物は、鉄骨の強みと耐火被覆の性能を組み合わせ、火災時の安全性と事業継続性を高める合理的な構造方式です。

適切な材料選定・厚さ・連続性・施工品質の4点が耐火性能の柱です。竣工時の認定仕様を守り、点検・補修で仕様を維持することで、火災時の延焼抑制・避難時間の確保・構造安定性に寄与します。保険実務では、耐火被覆の有無や性能は料率・条件の評価に直結するため、図書・写真・測定記録などの裏付けを備えておくことが合理的です。設計・施工・維持管理・保険手続を一体で考えることが、安心とコスト最適化の近道になります。