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建物評価格

建物評価格は、火災・地震などの損害が発生したときに保険の支払判断で拠り所となる「建物の評価額」を指します。購入価格や現在の売買相場とは異なり、保険の観点では再取得に必要な金額(新価)や、そこから経過年数等を反映した価値(時価)で扱われます。

保険金がいくら支払われるかは、損害額そのものに加えて、契約で定めた保険金額、そしてこの建物評価格(=保険価額)との関係で決まります。契約時の過少設定や古い時価契約のままでは、復旧費用に届かない結果となるため、評価の置き方を理解し、定期的に見直すことが不可欠です。

建物評価格の基本と関連用語

要点は「保険価額=建物評価格」「保険金額は契約で決める上限」「支払いは損害額・保険金額・保険価額の三者関係で決まる」の三つです。

● 建物評価格と保険価額・保険金額の違い

建物評価格は保険上の価値で、一般に保険価額と同義です。これに対し、保険金額は契約で定める支払上限です。保険金額が保険価額より大幅に低い場合は過少保険となり、一部損害で比例支払いになる可能性があります。

● 新価と時価の考え方

新価は同等の建物を現在の材料・工賃で再調達するための額です。時価は新価から物理的減耗等を控除した額で、築年数が長いほど低くなります。復旧費用を意識するなら新価ベースの設定が実務的です。

● 再調達価額という言い換え

建物評価格のうち新価に相当するものは再調達価額とも呼ばれます。延床面積、構造(木造・鉄骨・RC)、仕上げ、設備、地域の建設単価などを反映して算定します。市場の売買価格とは別物である点に注意が必要です。

地価や売買事情に左右される不動産価格と違い、保険の評価は「同じ建物を再び建てるにはいくら必要か」を基準にするのが基本です。復旧費用に直結するため、保険設計の出発点になります。

評価方法(算出の流れ)

実務では概算法と精緻な積算を組み合わせ、延床面積×単価を中心に、構造・仕上げ・付帯設備・地域係数で補正していきます。

● 面積×単価の概算法

延床面積に構造別の基準単価を掛けて新価の目安を出し、屋根材や外壁、内装グレード、設備仕様で調整します。簡便ですが、実態との差が出やすいため、高額物件や特殊用途は追加精査が必要です。

● 付帯設備・外構の扱い

受変電設備、太陽光、エレベーター、冷暖房、スプリンクラー、外構・門扉・擁壁などは評価対象や補償範囲が商品で異なります。建物に含めるか設備扱いか、見積時に範囲を明確化しましょう。

● 構造差と地域係数

木造・鉄骨・RCで単価は大きく異なり、同じ構造でも地域の労務費・資材費で差が出ます。建設費の市況変動や法改正に伴う仕様変更も反映が必要です。更新時は最新単価での再評価を推奨します。

賃貸併用や店舗併用住宅、工場など用途混在の場合は、用途ごとの仕上げや設備差で単価が変わります。均一単価での一括評価は過少・過大の原因になるため、区分して積み上げると精度が上がります。

支払額との関係(損害時のてん補)

支払額は「損害額」「保険金額」「保険価額」の三要素で決まり、過少保険では比例てん補が働きます。全損でも保険金額が上限です。

● 比例てん補の基本式

一部損害の典型式は、支払保険金 = 損害額 × 保険金額 ÷ 保険価額 です。保険金額が保険価額より低いと、その割合に応じて支払いも比例して抑えられます。評価の過少設定が大きいほど自己負担が増えます。

● 全損・半損・一部損の上限

全損認定でも支払いは保険金額が上限です。半損・一部損は損害額が基礎ですが、過少保険では比例てん補で減額されます。特約で新価払の条件が付く場合でも、上限や免責は契約条項に従います。

● アンダーインシュアランスの典型

新築時の評価で長年据え置き、建設単価上昇や増改築を反映していない例が多いです。時価契約のまま築古になり、復旧費に届かないケースも目立ちます。定期的に保険価額を点検し、保険金額を合わせることが重要です。

保険金額が保険価額を上回る超過保険にしても、支払いが増えるわけではありません。適正評価と適正金額のセットで、初めて想定通りの補償が機能します。

新価契約を勧める理由と注意点

復旧資金を確保する観点では、新価ベースの評価と保険金額設定が合理的です。もっとも、契約条件や特約の有無で支払実務は変わります。

● 時価契約の落とし穴

築年数の大きい建物では、時価が新価より大幅に低くなり、実際の修理・建替え費用に届きません。古い契約のまま放置すると不利益が発生しやすく、見直しの優先度が高い領域です。

● 新価契約でも留意点あり

新価払の特約や支払要件(実際の修理・再取得の実施、期限内の申請など)が付くことがあります。支払は契約条件・免責金額・支払限度の枠内で行われるため、条項の確認は必須です。

● 旧契約の見直しポイント

評価基準年、建設単価、増改築、用途変更、設備更新、付帯物の追加を棚卸しし、現況に合う保険価額へ改定します。金額改定に併せて免責、支払限度、特約構成も再設計すると安心です。

建物の安全性向上(耐震補強、感震ブレーカー設置など)と評価・金額の適正化を同時に進めると、事故時の復旧スピードと家計・事業の安定度が高まります。

必要書類・申込時の実務

評価の裏付けと物件の同一性が示せる資料を整え、見積段階から保険価額・保険金額の妥当性を検証します。

● 見積・評価に必要な資料

登記事項証明書、固定資産税情報、建築確認・検査済証、設計図書、平面図・立面図、仕様書、過去の工事記録、設備一覧、延床面積の根拠など。写真台帳があると査定がスムーズです。

● 更改時の再評価

満期更改の都度、建設単価や設備更新、用途変更の有無を確認します。過少保険を避けるため、増築・改修・太陽光追加などの変化は必ず反映しましょう。大規模物件は定期的な実査も有効です。

● 誤差と乖離のリスク管理

概算評価は迅速ですが、精度に限界があります。高額・特殊・複合用途は専門の積算で裏付け、契約後も大きな改修や市況変動があれば中途更改や増額を検討します。

評価根拠を社内で保管し、次回更改や事故時に直ちに提示できる体制を整えると、審査・支払の遅延を防ぎやすくなります。電子データと紙の両方で保管すると安心です。

よくある質問(ケース別の考え方)

リフォーム、築古、共同住宅など、条件で評価方針や書類が変わります。事前に想定し、必要資料を揃えましょう。

● リフォーム・増改築後の扱い

仕様のグレードアップや面積増は新価を押し上げます。工事完了後に評価を更新し、保険金額も合わせて改定します。見直しを怠ると比例てん補の対象になり得ます。

● 築古でも新価は設定できるか

築年が古くても、同等の建物を建て直す費用は算定可能です。時価契約のままでは復旧費に不足しやすいため、新価ベースへの切替と特約の要否を検討します。

● 共同住宅・テナントを含む場合

専有部・共用部・テナント工事範囲の線引きが重要です。管理組合保険や賃貸人・賃借人の補償の重複や空隙がないか、契約前に役割分担を確認します。

外構や附帯工作物を含めるか、付属建物と本体の評価を分けるかも商品差があります。事故後の解釈相違を避けるため、設計段階で範囲を明文化しましょう。

保険実務での活用例

評価は保険設計だけでなく、社内の固定資産管理、金融機関との折衝、BCPの更新にも有用です。整理しておくと多方面で役立ちます。

● 固定資産管理との連携

固定資産台帳と評価根拠を突合し、更新・除却・増築の履歴を反映させます。会計と保険の評価は目的が違うため、両輪で管理すると説明力が高まります。

● 金融機関・利害関係者への説明

適正な保険価額と保険金額を証明できれば、融資の審査やリーシングの交渉でも安心材料になります。更新時のレポート化は社外説明に効果的です。

● 自社ポリシーの整備

一定額以上は専門積算を必須にする、増改築時は中途更改を原則にするなど、社内ルールを明文化すると過少保険や説明不備を防げます。

事故対応の初動で評価根拠を提示できる体制は、査定の迅速化と支払までの時間短縮に直結します。平時からの整備こそが防災です。

建物評価格についてのまとめ

建物評価格は復旧費用の物差しであり、保険金額・損害額と並ぶ支払の三本柱です。新価ベースの適正評価と、契約金額の整合が実益を左右します。

売買価格や感覚の金額ではなく、同等建物を再び建てるにはいくら必要かを基準に設定し、増改築や物価変動を反映して定期的に見直しましょう。評価の裏付け資料と物件の同一性を丁寧に整えれば、事故時の比例減額や不払いのリスクを大幅に抑えられます。