MENU

ディダクティブル方式

ディダクティブル方式とは、損害額からあらかじめ定めた「自己負担額(免責金額)」を差し引いて保険金を支払う方式のことです。

火災保険や店舗・事務所向けの保険では、軽微な損害を契約者側で負担し、一定額を超える損害のみを保険でカバーする考え方を採用することがあります。ディダクティブル方式はその代表で、例えば免責金額を「10万円」に設定した場合、損害が45万円なら45万円−10万円=35万円が支払対象となります。小さな修理や消耗的な支出を保険で扱わないことで、保険料の抑制やモラルリスクの低減に寄与します。

ディダクティブル方式の基本構造

自己負担額を先に差し引く「差引支払」の設計が核となります。

● 基本式

支払保険金 = 損害額 − 免責金額(ただし下限0)。免責金額を超えない損害は保険金が発生しません。超えた部分のみが支払対象となります。

● 免責金額の設定

5万円/10万円/15万円など、商品や契約内容に応じて選択肢が用意されます。一般に免責が高いほど保険料は抑えられる一方、自己負担リスクは増加します。

● 対象損害の範囲

火災・落雷・破裂爆発・風災・水災・盗難・破損等、契約でカバーしたリスクの範囲内で発生した損害が対象です。免責はリスクごとに個別設定される場合もあります。

設計の狙いは、軽微な損害への小口請求を抑え、契約者による基本的な維持管理や小規模修繕を促しつつ、重大・高額な損害に保険資源を集中させることにあります。結果として、全体の保険料水準の安定と、利用の公平性に寄与します。

フランチャイズ方式との違い

閾値の超過後に「満額支払い」となるフランチャイズ方式とは、支払の考え方が異なります。

● ディダクティブル方式の特徴

超過分のみ補償。損害額から免責を差し引くため、免責を超えても差引分は常に自己負担となります。小口請求の抑制と保険料の合理化が主眼です。

● フランチャイズ方式の特徴

一定額(フランチャイズ)を下回る損害は不払い、上回る場合は損害額全体を支払う設計です。閾値の「線」を越えるか否かが分水嶺となります。

● 実務上の選好

国内の火災保険等では、実務運用の明瞭性やモラルリスク対策の観点からディダクティブル方式が一般的です。小規模損害の自己負担を確実に残せる点が評価されます。

例として、免責10万円・損害45万円のとき、ディダクティブルなら35万円支払い、フランチャイズ方式なら(閾値超過で)45万円支払いとなります。同じ「10万円の線」でも、支払結果が大きく違うため、契約時の理解が重要です。

計算方法と具体例

実際の損害場面を想定し、どのように支払額が決まるかを確認します。

● 例1:免責10万円・損害8万円

損害が免責未満であるため、支払保険金は0円。契約者の自己負担のみが発生します。日常的な小修理を保険から切り離す狙いが現れます。

● 例2:免責10万円・損害45万円

支払保険金は35万円(=45万円−10万円)。免責分は常に差し引かれるため、自己負担が残ります。修理見積の内訳に応じて額は調整されます。

● 例3:複数箇所の同時損害

同一事故で複数箇所が損害を受けた場合、原則は「事故単位」で免責が適用されます。別日・別原因であれば事故が分かれ、免責がそれぞれにかかるのが基本です(商品約款により例外あり)。

注意点として、保険金額の上限(限度額)や、時価・再調達価額・支払割合等の他要件と併用で計算されることがあります。実際の支払は「損害額→免責差引→限度・条件の適用→最終支払金額」の順で決定されるイメージです。

メリットと選び方のポイント

保険料・運用・リスクのバランスをどう最適化するかが鍵です。

● 保険料の抑制効果

免責を設定するほど小口請求が抑えられ、保険全体のコストが下がる傾向にあります。固定費を抑えたい事業者に有効です。

● キャッシュフローの見通し

軽微な損害は自費、一定以上は保険という役割分担が明確で、年間のキャッシュフローを設計しやすくなります。修繕基金の積立と併用すると安定します。

● 適正な免責水準の目安

過去の損害傾向(頻度・金額)と現金保有、修繕体制を勘案します。小口損害の頻度が高いなら、免責が高すぎると逆に負担が増える可能性もあります。

住宅であれば家計の予備費、店舗・事務所なら月次の修繕予算と照らし、無理なく賄える範囲で免責を選ぶのが実務的です。見積時は、免責5万・10万・15万など複数案で保険料差を比較し、総支出の最小化を検討しましょう。

デメリットと注意点

小口損害の自己負担が積み上がるリスクや、約款運用の細部に注意が必要です。

● 自己負担の累積

年に複数回、軽微な損害が起きると、免責分の自己負担が繰り返し発生します。費用対効果の見直しや予防策の強化を並行して行うべきです。

● 適用単位の取り違え

同一事故か別事故か、一次被害と二次被害の扱い、再発事故の認定など、免責の掛かり方は事故認定に依存します。事故状況の整理・証拠確保が重要です。

● 他条件との相互作用

支払限度額、時価・再調達価額の採用、支払割合、特約適用の要件など、複数の条項が重なります。免責だけに着目せず、トータルでの支払シナリオを確認してください。

見積・契約時には、免責の金額、事故単位、対象リスク別の設定差、特約の適用可否、自己修繕の基準などを事前に整理しておくことで、支払段階の齟齬や想定外の自己負担を防げます。

ディダクティブル方式についてのまとめ

ディダクティブル方式は、軽微な損害を自己負担し、一定以上を保険で補うことで、保険料の合理化と公平な運用を実現する設計です。

免責金額の選定次第で、保険料・自己負担・リスク分担のバランスは大きく変わります。過去の損害傾向、家計・事業の資金力、修繕体制を踏まえ、免責の水準を丁寧に見極めてください。比較検討では、免責水準ごとの保険料差だけでなく、想定し得る年間の小口損害の回数・費用も織り込み、総支出が最小となる設計を目指すことが重要です。