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商品・製品等

火災保険における「商品・製品等」とは、軒下を含む建物内に収容された販売目的の「商品」、原材料を加工して完成した「製品」、その製品の「原材料」や半製品・仕掛品までを含む動産を指します。

店舗で陳列されている商品、倉庫に保管中の在庫、出荷待ちの製品、検査待ちの半製品、パレットやケースに入った原材料などが典型例です。火災保険の契約形態や約款によって補償範囲は異なり、商品・製品等を対象にした特約が用意される場合もあります。さらに、業種によっては別個の保険(例:貨物の輸送中を対象にする保険や冷凍・冷蔵設備に関する特約)を組み合わせる必要が生じます。什器備品・設備と混同されがちですが、これらは通常「商品・製品等」には含まれません。区分を丁寧に分けることが、事故時の立証やスムーズな請求につながります。

補償範囲と対象物の区分

定義・範囲の理解

商品は販売のために保有する完成品全般を意味します。製品は自社で原材料を加工し完成させたもの、または仕入後に自社ブランドでセットアップした完成品を指すことがあります。原材料はロットや袋の状態に関わらず対象で、加工作業の途中段階にある半製品・仕掛品も含まれます。包装資材やラベル、取扱説明書などは、製品に不可分に組み込まれる前であっても、契約内容により対象と扱われることがあります。一方、レジ、陳列棚、空調、POS端末、組立用の工具などは通常「設備・什器」の区分へ計上します。軒下保管は多くの約款で建物内扱いに準じることがありますが、完全な屋外保管や屋外展示は除外・制限となる場合があるため、条件の確認が重要です。貸出用デモ機や預かり品は、所有権や契約上の扱いが異なるため、対象に含めるための条項が求められる場合があります。輸送中は火災保険の範囲外となることが多く、専用の保険が必要です。季節在庫の増減が大きい業態では、平準的な契約では不足が生じやすく、変動に対応した設計が望まれます。

現場では「何が商品・製品等で、何が設備・什器なのか」を在庫表と資産台帳で明確に区分しておくことが最重要です。建物、設備・什器、商品・製品等の三層を分けることで、補償の適用可否と保険金額の算定を迅速に進められます。

評価方法と保険金額の決め方

時価・再調達価額・仕入原価の考え方

商品・製品等の評価は、建物や設備の評価と性質が異なります。多くの業態で、販売目的の在庫は仕入原価を基準に把握するのが実務的です。一般に販売利益は火災保険の補償対象に含まれません。売価ベースではなく、取得に要した実際の原価や再調達に必要な費用が焦点になります。製造業の仕掛品や半製品では、投入した原材料費と進捗に応じた加工費を反映した原価計算が必要です。海外仕入が多い場合は、関税や運賃など付随費用も原価へ適切に配賦します。

保険金額の設定は、平時の平均在庫ではなく、ピーク在庫を意識することが重要です。繁忙期や大型キャンペーン前に在庫が膨らむ業態では、低めの保険金額だと一部保険になり、被害額に対して比例てん補の適用で受取額が目減りするおそれがあります。変動が大きい場合は、月次申告で保険価額を調整する方式を活用すると、保険料と補償のバランスを取りやすくなります。品目ごとに回転率や単価が異なるため、分類別に適正な基準を設けておくと、事故後の立証がスムーズです。

販売差益や将来利益を守りたい場合は、火災保険だけでは足りません。営業が止まることで発生する粗利益の喪失は、別の補償で備える考え方が必要です。評価の前提と守りたい損失の種類を分けて設計してください。

事故例・請求のポイントと注意点

よくある損害と実務対応

典型的な損害は、火災による焼損だけではありません。消火活動に伴う散水・泡消火での水濡れ、煤や煙による汚損、スプリンクラーの誤作動による濡損、臭気付着、温度逸脱による品質劣化、ラベル・バーコードの剥離や変色、粉体・穀物の水分吸収による不良化など、多岐にわたります。盗難や破壊行為は契約によって取り扱いが分かれ、対象外または特約で対応となる場合があります。屋外展示や仮設売場は条件が厳格なことが多く、事前の確認が欠かせません。地震や噴火、津波を原因とする損害は通常の火災保険では補償されないのが一般的で、別契約が必要です。冷凍・冷蔵設備の故障による温度管理不良は、特約での対象化が検討されます。

請求時は、棚卸表、仕入伝票、請求書、売上台帳、在庫管理システムのエクスポートデータ、ロット番号や消費期限の一覧、被害状況の写真・動画、廃棄証明や産廃マニフェストなど、数量と単価の双方を裏づける資料が鍵になります。什器備品に置かれていた商品と什器自体の損害を区別して集計すること、破袋や汚損品の実物・現認記録を確保すること、被害拡大防止のための応急措置を速やかに実施することが重要です。免責金額の設定や、同一事故内での複数原因の扱いも約款ごとに差があるため、担当者は根拠条文と社内ルールを突き合わせながら対応します。季節在庫の増減が大きい場合は、事故時点の在庫高を示す臨時棚卸や月次確定資料が決め手になります。

平時から「区分の明確化」「在庫の可視化」「証憑の整備」を進めておくと、事故後の査定が加速します。特に原価計算の妥当性と在庫数量の整合性は、早期復旧と適正な保険金受領の土台になります。

商品・製品等についてまとめ

商品・製品等は、販売目的の完成品に限らず、原材料や半製品・仕掛品まで含めた「在庫の全体像」を指し、設備・什器と厳密に区分して管理することが肝心です。

補償の中心は原価や再調達費用という発想で、売価や将来利益とは切り分けて設計します。繁忙期の在庫膨張や屋外保管、輸送中、温度管理不良など、範囲や条件が変わりやすい論点は契約前に整理し、必要に応じて特約や別契約を組み合わせます。事故後は数量と単価を裏づける資料を整え、商品と什器の損害を分けて立証することが早期支払の近道です。平時の在庫区分・証憑運用がそのまま「有事の強さ」になります。